老いのひとこと
何時ものコースを辿れば小雨がぱらつく。
此の上なく用心深き御大は快晴と言えども必ず雨傘を携行するので全く以って事なきを得た。
日毎のトレーニング場が待って居る。
滑っては拙かろうと左を手摺りに右には傘を杖代わりに慎重に渡りきる。
心もち足が軽い足取り軽やかに帰路に就く。
最終コーナーを曲がって小学校のグランドに差し掛かれば此の雨の中学童たちは威勢のいい声を掛け合っている。
コーチャーのノックの球を懸命に追う。
ネット脇にはバッテリーが入念に球を投げる。
長身なエースピッチャーは伸びのあるいい球を投げる。
何も知らない此のジッ様は自慢らしくも「投げてから左脚にしっかり体重移動を!」と檄を飛ばしてしまっていた。
彼は軽く帽子に手を遣りながら小声ながら「有難うございます」と一礼を返したではないか。
好いチームだ。
監督さんの指導方針が行き届き選手たちが実に素直に育っている。
素晴らしいぞ。
礼儀を尊ぶスポーツは決して剣道だけでないことを目の当たりに出来てとても気持ちがよかった。
老いのひとこと
週に一度の日曜稽古、歳を忘れ汗を流す。
厭わず道場の床を踏む。
分け隔てなく受け容れて呉れる若き剣士と老練なる高段者に感謝の気持ち忘れずに手を抜くことなく身一杯の胆力で掛かりゆく。
一息の切り返しを心掛けるがままならず息を継ぐ。
遮二無二、でっかく振り被り左拳は正中線上を忘れず元に立てばやはり左は正中線を死守し強烈なる左右面を手の内利かせてど真ん中で打ち返すのだ、誠意を示さねばならぬのだ。
正面打ちでは只ひたすら右足攻め込み打ちに頑なに拘る、死ぬるまで永遠の我が課題だ。
元に立てば猛者連たちの氷の刃が我が脳天を直撃するまで微動だにしない鉄則を守り切る。
炸裂と同時に身を躱さねば我が体は紛れもなく吹っ飛ぶだろう。
遅からず早やからずの絶妙のタイミングが要求される。
誰しも手加減なしに真剣に突進するのを齢87が咄嗟に体を開かねばならない。
此れだけでも大した鍛錬になる。
瞬時の反応能力を諸に体得する絶好の機会を頂戴いたすのです。
とても有り難い事なのです。
感謝いたし居る次第なのです。
老いのひとこと