老いのひとこと⑰

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山ザクラも良いが新緑したたる野田山墓地も素敵だ。

我が母方の曾祖父近吾の面影を求めて五月晴れの野田山を彷徨する。

跡形もなく姿を消した跡地に寂然と佇む。

数珠を手に暫し合掌しつつ相済まなかったと罪業妄想に陥る。

ふと足元の後ろの樹木の根元に目を遣れば何んとツボらしきものが地表に一部露出しているではないか。

いにしえの墓地なれば然もありなんと見過ごせばよいものを此のわたしは敢えてそれを掘り出してしまっていた。

確か以前には此の箇所に近吾が建てた極々小さな墓石が在って“近吾三男の墓”と刻まれていた記憶を思い付いた。

まさかと思いつつも好奇心に駆られて内部に堆積する黒き土塊を棒切れで掘り起こし外に出した。

左程の罪悪感や恐怖心を抱くことなく淡々と身体が動いた。

白き小さき物体は恐らくそうであろうと軽く掴めばぶよぶよ軟らかかった。

DNA鑑定したとて今更何も仕様がない。

僧侶の読経も考えたがこれとて詮無いこと、

わたしは此の甕を胸に抱きて帰宅し水道水にて洗浄し後日我が墓地にわたくしと共に眠って戴くことに相致そう。

知識はないは或いは古の甕棺葬の名残が藩政末期にはまだ在ったのだろうか。

頑強な焼き物で内部には幾何学模様が丁寧に施してある、但し蓋は何処にもない。

嬰児なら十分なるスペースはありそうだ。

 

色んなことがあるものだ、長生き出来てよかったではないか。

本当にありがとう。