母方の曾祖父近吾は妻操との間に2男3女に恵まれたが近吾にはもう一人死産もしくは流産したと思しき三男坊がいて小さな墓を建て手厚く葬った。
愚かしくも罪深き邪推に過ぎぬが近吾はわが水子を此の甕の御棺に葬った。
今、匿名香太郎の名で建立せし父清三郎母鉚の墳墓が縁あるものの手により消滅させられた。
永遠に埋没する其の寸前に近吾は地中より我が手首を差し出し夢中でわたしに訴えた。
わたしは其の地中からの呻きを肌で感じ取ったに相違ない。
甕の中の霊魂が地上に解き放たれたのです。
其の開放感が一つの生命を宿したかのように甕の中から若き一本の苗木がまるで手品師の手に懸かったように忽然と現れたのです。
わたしは「きんごの木」と命名した。
素焼きの鉢植えに植え替え燈った命の火を絶やさぬように見守らねばならない。
「きんごの木」よ樹齢千古の銘木として末永く生き永らえたら佳いぞ。
願わくば少々手狭であるが我が安住の地で根を下ろせばよい。