黒いサファリ―ハットを深めに被り黒縁のロイド眼鏡に黒色マスクの若き男性と毎日のように出逢う。
8時45分頃とほとんど同じ時刻で出逢う箇所もほぼ同じ。
真夏だというのに長袖のユニホームに足首の締まったスラックス姿、勿論上下ともに黒装束で黒の編み上げブーツを履く。
気障っぽいところはなく至って糞真面目そうに前方を直視している。
学生風でもあり学者風にも見える。
並みのサラリーマンではなく何某かの自由業風にも覗える。
鶴来線の電車を愛用されるやはり一風変わった若者に違いない。
恐らくは此の若者も今日もあの老人がたどたどしい足取りで行く。
白いタオルを頭上に捲き白いマスクを顎に掛け貧相なよれよれTシャツにステテコ姿で徘徊す。
行き倒れにならぬようにと懸念しているかも知れない。