老いのひとこと

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時折垣間見る黒部の渓谷美がなければ一時間強のトロッコの旅は苦痛以外の何物でもなかろう。

劈く金属音から漸く解放され欅平駅に降り立つ。

老若を問わない大勢の客人たちで込み合う。

まさかこんな山奥で密に出逢うとは思いの外。

悉く全員がマスク姿でその律儀さには驚く。

およそ一時間強の自由時間が宛がわれ地図を見ながら興味をそそる人喰い岩と名剣温泉を探すことにした。

しかし人喰い岩は全面コンクリートを吹き付け温和な岩に変身し興ざめだ。

「名剣」の名の由来を知ろうと温泉旅館を目指したが帰りの時刻が気になり断念した。

ガイドさんに名剣橋の上にて写真を撮って貰った。

でも名剣にはあまり興味はお持ちではなかったようだ。

欅平から黒四ダムへ通ずる下の廊下を是非踏破してみたい願望こそあれ最早すでに時遅しと云えり。

いや所詮わたし如き登山歴無きものには齢に関係なく初めから無理な話になりましょう。

後ろ髪を引かれる思いで晩秋の黒部秘境を後にした。

何時の日にか適うものなら此の名剣温泉の湯にだけは浸かってみたいものだ。