老いのひとこと

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額新町の銭湯から雀のお宿の辺りでちょくちょく出逢わす御仁がいる。

わたしよりは若い年恰好は七十前後あたりでしょうかグレーの頭髪で目鼻立ちは普通に整い、ただ眼つきが澱んだような潤んだような無表情なような一見おどおどしたようにも覗われる少し変わったお方のように見受けられる。

春ころから初夏のころにかけては行きずりには殊更目を合わすこともなくやり過ごしていた。

盛夏のころからであったでしょうか何気なくわたしの方からごあいさつ程度の軽い会釈らしき仕草で通り過ぎるのだが先方さまは相変わらず表情を変えることなく行き去るのです。

秋ころからは少しばかりの期待を込めて「ヤア」と右手を差し出してみたり「ヤア毎度さん」と小さなお声を発してみたり「好い天気ですね」と少しばかり御愛想を示してみたり、色々あれやこれや試みてみたりするのだけれどやはり以前とはお変わりなく只ごく最近には目線だけ横目でわたしに視線を送るようになられた。

その目の表情は「此の野郎迷惑だ」とか「貴様何モノだ」とかの攻撃的な抗議のシグナルではなさそうだ。

そう云えば少しばかりうさん臭そうな猜疑の目でわたしに返してくる。

決して鋭くはない強い眼付きでもないやはり少しばかり怯えたようなおどおどしたようなアンタとは無関係だと云わんばかりの目線をわたしに注がれるのです。

 

処が最近は目線が少しばかり鋭くなったように見受けられて仕方がない。