老いのひとこと

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       無断掲載

年末にテレビで見た映画が面白かった。

浅田次郎原作の「柘榴坂の仇討」で彦根藩士演ずる中井貴一水戸藩士を演じた阿部寛が共演した。

桜田騒動を描いたフィクション映画に過ぎぬが最後の結末の場面がとてもよかった。

井伊大老の首級を挙げた18名の水戸藩士も今や生き延びるは阿部演ずる「佐橋十兵衛」只一人、13年もの時の流れは今や事の次第を衷心より悔い改め大老の月命日には菩提寺の墓前に首を垂れる。

更には大老の名直弼の一字を貰いおのれを直吉と呼び変えた。

そしては終の住処を柘榴坂と定めて追っ手彦根藩士中井が演ずる「志村金吾」をおのれの人力車に客人として丁重に迎え降りしきる雪の中静々とおのれの死場所へと案内するのである。

主君に汚名を帰した憎むべき仇敵が無腰の姿で目の前にいる。

車上の「志村」は車を引く「佐橋」にあたかも旧知の仲を探り合うような武人同士の重々しい問答が展開される。

おのれの非を認めた「佐橋」は存分に処置しろとおのれの首を「志村」の前に曝け出す。  

ところが「志村」はおのれの長刀を「佐橋」に授けおのれは脇差を抜いて対峙する。

刀を手にした「佐橋」はもはや車夫ではない武士の血が滾った。

命の遣り取り真剣勝負が展開するが両者の心中に得体知れない分別が走り抜けたのである。

決闘は終わったが咄嗟に「佐橋」はおのれの腹掻っ捌く仕種を「志村」は制止した。

互いに此の両者には死から奇しくも生が甦ったのだ。

これぞまさに針谷夕雲が説く無住心剣術に言う「相抜け」の極秘技が成り立ったに違いない。

胸の鼓動が止み終わらなかった。

深い感動がひしひしと湧いた。

偉い映画を観させていただきとても気持ちが良かった。