2021-06-20 老いのひとこと 馬替下橋の欄干からは柳の木や枝垂れ桜の並木が望めるが其の中に異質な枇杷の木が混じる。 恐らく捨てられたが種が芽吹き成長したのだろう。 日毎に枇杷の実が色づき熟れて枝もたわわに見る者の目を誘惑する。 ところが此の枇杷の木は意地悪く枝々が高橋川の岸壁の上に迫り出して誰しも手が届かない。 何んと云う神の仕業か知らないが其の神様の造形の妙術が憎いばかりだ。 また馬替の外れの裏小路を行けば其の一角に枇杷の大木が一本あって梢の先っちょにも枇杷色した美しい実が鈴なりに実る。 わたしはいつも此の枇杷の木の真下を通り抜けるのだが此処でもやはりちょいとした誘惑に駆られる。 目と鼻の先に熟れた枇杷の実がぶら下がる。 さぞかし甘かろうなあと嘆息まじりに急ぎ足で通り過ぎるしかないのです。 もう少し行けば例のスズメのお宿に辿り着く。 いつも携行する袋から一握りの玄米を庭先の空閑地にばら撒く。 さすがに警戒してついばむ場面にはまだ一度お目には掛かれないのだが此れもわたしの日課の一つになってしまった。 ところが此処でも異変が生じてしまったのだ。 或る日の事、此のお庭に庭師が配属され剪定作業を仕上げていったのだが、其の折に木々の根元に何かしら薬剤を撒いて行かれたのだ。 恐らく除草剤で在ろう薬品の匂いが漂うようになってしまった。 スズメたちは賢い、薬剤を敬遠して身の安全を計ったかのように姿を隠してしまったのだ。 わたしの楽しみが一つ何処かへすーと行ってしまったのでとても寂しい。 スズメたちがとても愛おしい。