老いのひとこと

五十の手習いが嵩じて齢八十を回る身が今も竹刀を握る。

此れを是とし益々生涯スポーツに磨きを掛けねばならない。

とは思いつつもとうとう蹲踞が覚束なくなりそろそろ身を退く時期も近付いたようだ。

 

道場をこころ静かに立ち去らねばならない。

何の未練もなく身奇麗な立ち居振る舞いで跡を濁さず立ち去りたい。

 

 

あっそうだ、それでもやはり小手だけは直して置こう。

汗と涙で煮詰めたような愛用の小手を直さねばならない。

小手・コテと連続二段打ちをコテンパに打ちのめされた

県武時代の懐かしい面々を思い出す。

中山・清水・金谷・石井・増田・石田・松岡らの先輩剣士から愛の薫陶を多々授けられた。

剣道の凄まじさ・重厚さ・美しさ・清々しさ・そして剣の五徳の何たるかを教え込まれた。

其の証しが此の破れ切り裂かれた無惨なる小手そのものになる。

しがない此のわたしの剣道人生にせめて有終の美を飾らんと破れた小手に入念に手を入れた。