老いのひとこと

セメダインで接合したはずの差し歯の部分が其の日の夕食時に口を開けた途端にポロリと脱落したではないか。

落胆より憤りが逆巻く、こん畜生あのヤブ医者メと精いっぱい侮る。

 

翌日には早速処置を願い出るが恰も既成路線を走るが如く

「たかはしさんもうダメですわ」

「直ぐに入れ歯への切り替え措置に入ります」よと有無を言わさぬ早業でグラインダーが口の中で回り始める。

麻酔なしでこりゃ拷問だと悲鳴を上げようにも声にならない。

凡そ10分間ほど荒砥ぎが終わり中砥ぎに入り、これは仕上げ砥ぎかなと思いを巡らす余裕が生じていたではないか。

歯神経に触れる激痛からは全く解放され此ればかりは大いに助かり申した。

四つ目の総仕上げの優しいモーター音を意識するまで全てを観念し容認したことになる。

此の医師の腕を全幅信頼し、入れ歯を受け入れざるを得ない。

 

しかし商売気に長けた歯医者さんには違いない。