老いのひとこと

雪のない春めいたこんなお正月は珍しい。

 

髭ずらの丸坊主が素足の草履履きで街中を徘徊いたせば本物の認知症がお通りだと人はみな伏し目がちに遠ざかる。

 

尤も裏道しか往かぬので人に出逢うは滅多にしかない。

 

もっぱら出逢うはお犬様、愛想のないポチともう二匹。

道行かばと或るお宅のウインドウ越しにちぢり毛の小さな洋犬が二匹揃ってわたしを威嚇する。

いやジャレ付いているのかも知れぬ、ちっちゃなお目目が笑ってる。

後ろ足でたっちし前足でガラス戸を引っ掻くように叩いてる。

挨拶を返せねば悪かろうとわたしも鳴いて見せる。

或る日のこと灰色が一匹だけでいつもと違う。

するとそいつがカーテンの後ろへ姿を消したかと思えば兄貴分の白犬に通報したらしくいつものように犬々諤々楽しそうに吠えたて遊んでくれる。

とてもユーモラスな兄弟犬だ。

一時暇をつぶしてから石踏み修行道場へと急ぐ。

此れぞ悠々自適たる我が日常なり。