老いのひとこと

此処へ来た密かなるお目当てがあった。

用を足すのなら野々市にも泉野にも立派な図書館がある。

殊更小立野台地まで来て借りても返本が厄介なるは火を見るより明らか。

実は此処に陳列する30万点の蔵書の中から只の一点の宝石ならぬ見すぼらしい漬物石を探しに参ったことになる。

幸いなことに明確なる指針を戴いていた。

三階のWの区割りにて「身体を動かす」のコーナーに絞って探索を試みた。

更にジャンルを絞ってそれこそ祈る思いを込め血眼になって探し求めれば、在ったではないか。

漬物石が見付かったのだ。

漬物石が光り輝く巨大なるダイヤモンドのように映ったではないか。

全身の澱んだ血液が勢いよく循環し始めた。

嬉しかった、此の上なく悦んだ。

何処の誰からも顧みられる事もなく寂しく埋没し既に此の世から抹消されたものと思いきや何んと生存していたのだ。

事もあろうに此の文化の粋を極めた此の石川県立図書館に密かに息をしていた。

我が分身に頬ずりしながら互いに癒し合い慰め合った。