老いのひとこと

売れ残り商品の大量処分が問題になる時代に余りにもそぐわないドケチなお話ではあるが風変わりな御仁が此処に居たのです。

外でもない実に狂気じみた脳ミソの持主が農作業ならぬ脳作業に精を出す。

去年の秋に収穫を躊躇ったブロッコリとキャベツの株から成熟し切って食い物にならない干乾びた葉っぱを調理して今食べようと云うのです。

 

思い起こせば戦争中に間借り生活を強いられた我が家の夕餉の膳は口に出すのも憚るほど惨め過ぎた。

あの当時の台所はお金持ちの大家さんと共用でわたしのお袋さんが人目を避けるような異様な眼付きゴミ箱から残滓を漁る。

此の凄まじい情景をわたしは目にしてしまった。

見てはならない怖ろしい光景を目にしてしまった。

 

此の歳になってもあの地獄絵は脳裏から拭い去ることはできない。

 

育ち盛りの我が子を育てるためにわたしたちのお袋さんは餓鬼と化した。

 

今でも夕餉にはお袋さんの顔を思い出す。

 

粗食に耐え抜くことには馴れっこなのだ。

しなびた葉っぱを調理して美味しく戴きました。