老いのひとこと

甲冑は防具に外ならずさながら鎧兜を身に付け道場に立つが如し。

取り分けスチール製面と旧式竹胴はずっしり重い。

最早蹲踞は恥ずかしながらも敵わない。しかし遠慮なしに若き剣士たちに懸かりゆく。

もっぱら切り返しと正面打ちに精進する。

 

若き剣士たちは日頃の修錬の成果をビデオに収めて研鑽に励み居るらしい。

年寄りが今更と思いつつも収録場面を所望いたせば容易い御用だと快諾してくれて嬉しかった。

恐る恐る目を通せばおぼつかない足取りで面を打つ。

此の歳にしてもう力む筋力はない、言わずもがな脱力姿勢で打っている。

スロービデオのように動作が緩慢だ。

よたよたした体移動だ。

如何にも年寄り臭く醜い限りだ。

さらに一つ大きな欠点に気付いた。

切り返しに際し正面を受けた後何故かしら右手が柄から離れ遊んでいる。

無意味な無駄な動作に違いない目障りだ。

反省材料を得た。

もう一つ重大なる欠陥に気付いた。

打突の瞬間に留め手の手の内が甘く鍔元から離れる嫌いあり。

改めばならない。

以後注意いたそう。

 

畏れ多くも畏くも霊験あらたかなる白山大権現の御許にて若き剣士たちにお相手にして打ち合う悦びに衷心より感謝申したい。