老いのひとこと
高山右近の兜になぞらえて前立てには十字をしつらえて飾った。
ところが不運にも素焼きの段階で右の鍬形が折れてしまったのだが勿体ないので飴釉に仕立てて本焼きし半世紀ほど大昔の「ボンドEセットクリヤー」を錬り合わせ何んとか接合できたようだ。
威風堂々とした様態にして貫録十分ではないか。
見れば見るほど惚れ惚れ致す自慢作だとは自画自賛もいい加減にしろと呆れ果てる。
ただ詰まらぬことに拘るのである。
昆虫のカブトムシの鍬形部分を角と呼ぶのに対しクワガタムシの鍬形部分を大顎と呼ぶらしい。
顎で戦うクワガタムシより角で戦うカブトムシの方がどう見ても強そうに見えて仕方がない。
ところがカブトの角が折れたと云う事は明らかにクワガタの大顎に圧し折られた訳だからカブトよりクワガタの方が強くはなかろうか。
愈々歳を取り申した次第だ。
老いのひとこと
農作業雑記
其の一
枝豆とインゲンの種はあの35度を超す炎天下に枯死したものとすっかり諦めた。
連日の熱気では炒り豆同然だったのだろう。
それでも1%の発芽率を信じて水だけは施しつづけた。
十数日後、待ちに待った降雨に見舞われたが蒸し暑き曇天が一面に空をおおう。
そんな或る日、不織布を除け添えば微かに地表が隆起し生き物の気配にビックリ仰天、天佑神助の到来に涙してしまった。
此の植物たちの強かな生命力に心から讃美を贈らねばならない。
其の二
カラスほど狡猾なる生き物はいない。
以前、頭上を急降下襲撃され怖い目に遭った。
蜂同様黒い帽子は標的にされやすいと聞いた。
それ以上に危険が及ぶカラス被害が農作物へのアタクソである。
実にツラニクイ腹が立つ。
カラス如きにセイモンデ見てもラチャカン事はラチャカンに決まっとるがそれでも腹が立つ。
なけなしの三株しかないトマトが次から次へとアタクソされる。
とうとう網でぐるぐる巻きにしてカラスの憎き嘴から身を守らねばならない。
今度生まれ変わるとすればカラスの天敵大鷲か大鷹に変身してこころゆくまで懲らしめてやりたいものだ。
でもやはり大様に如何ほど邪魔だてされようが平然と見過ごす度量がなくては死ぬるまで小者のままで終えるのです。
人非人に過ぎないのです。
老いのひとこと
城谷川の護岸の為のコンクリート壁と市道の路面のアスファルト壁との間のほんの僅かばかりの隙間を住処とする植物が居る。
マツバウンラン・ニワゼキショウ・コニシキソウ・ネジバナ・ワルナスビ等々枚挙にいとまがないが名も知れぬ雑草たちを加えればそれこそ数え切れない。
暑い日であったが此の川べりの植物を根こそぎ毟り取った。
今年は此の異常気象がゆえに上記の素敵な仲間達にはお目に掛かれなかったので気遣うことなく全ての雑草を駆逐した。
序でにお隣さんの領域にまで手を伸ばし作業したのだが実は今は亡き隣家のご主人は此の隙間の植物を嫌って天然ゴム如きコルタール如き弾力性に富む物質を奥深く注ぎ込んだのであろうが強靭なる生命力を宿す雑草には通用する筈もなく其の障害物を貫通して繁茂するのです。
ところが此の特殊な環境下に自生する植物の生への執着心にはほどほど手を焼いた。
人間はおのれの我欲で如何に自然を制圧しようと致せども自然の生命力の強かさには全く通用しないことをまざまざと見せ付けられた。
傲慢なる人間たちの愚かさをつくづく思い知った。
自然を冒涜いたすべかず。
老いのひとこと