2022-06-10 老いのひとこと 或る日、緑したたる生け垣が忽然と消え去った。 次の日には枯れた幹に無造作に横竹を結わいた殺風景な垣根に生まれ変わった。 それでも当事者の目には如何ほどに貧弱なるフェンスであれそれなりに祝福の目を注ぎたかった。 その横をよぎる大方の眼差しは冷淡にも座視するままに立ち去りゆく。 互いに煩わしきことには関わりたくはない。そういう没交渉的な地域コミュニテイが当たり前のご時勢になってしまった。 暫らくしてあの風変わりな生け垣の家のご主人がお亡くなりになったという。 或る日突然にも姿を消されました。 誰にも挨拶を告げることもなく逝ったのだという。 本人の意向で新聞にも広告が出されずあの偏屈な嫌われもののあの老人は此の世から跡形もなく姿を消して逝かれました。 其れが今風な娑婆と言うものじゃありませんか。 あの緑したたる風変わりな生け垣が消え失せたと同じようにその家のあるじも跡を追うように亡くなったとさ。 そんなものですよ。 それでいいのですよ。