下手糞老いぼれ剣士の夕雲考《1》

針谷夕雲と小田切一雲は無住心剣を編み出したが世に根付くことなく消滅した。それにしても「相抜け」の術技は特異な剣の理であった。
息の根を止め合う双方が共に生還する。まさに時代に逆行する異端の剣客であった。
この人物を鈴木大拙が評価した。その間のいきさつを素人風に調べてみた。


バラク・フセイン・オバマ・ジュニアの登場

昨日の栄華は何処へやら、有為転変の世の中は哀れと言おうか愚かと呼ぼうか、世の無常・儚さを今さらのように痛いほど思い知らされるのである。
全人類に核なき世界を熱く提訴したオバマは今や意気消沈してかつての面影はどこにもない。
中間選挙にて、苦杯を嘗め東洋的諸行無常の世界を知らされた。
確かに、建国以来初めてのアフリカ系大統領の就任であった。二〇〇九・一・二〇、ワシントンD・Cにて二〇〇万人の大群衆に向かってチェンジ到来を絶叫していた。
また、何と言っても圧巻は二〇〇九・四・五、プラハの地より核廃絶を訴え出たことだ。
全世界がみな感動し、胸振るわせた。
 “アメリカ合衆国は、核兵器国として、そして核兵器を使ったことのある唯一の核兵器国として行動する道義的責任がある”此の言葉で口火を切った。
かりに私の生存中には不可能であっても、やがて核なき世界の到来を何の躊躇いもなく明言していた。
斯くなる歴史的大英断を下し得た此の人物は、やはり世界のリーダーとして類を見ない傑出した存在に違いない。
歴史に刻まれたビックなニュースに間違いはなかった。時を同じくして、次のようなコラムニュースが伝えられた。
それは、金沢市内に在住する浅妻南海江氏が発起人となって、彼の著名なる中沢啓治の「はだしのゲン」を英文に翻訳し「Barefoot Gen」として全米に刊行なされたとの報道だ。
オバマへの何よりのプレゼントであり、多分二人の娘たちも目を通したことだろう。全十巻、一巻当たり一五ドル九五セントだという。
世界が動き始めた。予期せぬことがとうとう動き始めた。全世界が、今固唾(かたず)を呑んで凝視し始めた。
案の定、その評価は意外と早かった。ノルウエー国のノーベル賞委員会は二〇〇九年の平和賞をバラク・オバマに指名した。
このニュースは全世界に流れ、その実績より人類未来への希望を高く評価したのだと紙面は伝えていた。
しかし、オスロでの受賞の演説は白けムードの最たるもので、オバマの頬は剛直し精気を見い出すことは終ぞなかった。
己の高邁なる理想と理念をカメラレンズの前でカムフラージュすることは敵わなかった。
平和の構築には犠牲が伴うのだという。アフガンでの正しい戦争に容認を願い出るオバマの目は、紛れもなく苦渋に満ち潤んで見えた。
レンズは冷徹にも彼の欺瞞を捉えていた。しかし、と同時にこの人は、やはり己を欺くことの出来ない人物であることをもレンズは見事にキャッチしていたことにもなる。
オバマが大統領就任に当たり全米のみならず全世界の良識ある民衆に向け訴え出た数々の歴史的名言が印象的だ。
個々人が自分の利益だけを考えるのではなく、「自己犠牲」とか「無私」の境地に立って弱者へも目配りし責任を果たせるような思考形態を創出したい。
そのように価値観のチェンジを計りながら、破壊ではなく何かを建設することの重要性を訴えた。
つまり、極力死なるものを回避し生に繋げたい。当り前のように大量死が罷り通っていた時代から、生存の可能性を血眼になって捜し求めようとした。