老いぼれの弓事始め《19》

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⑰ チョン懸け
9月13日、一つの課題を携えて巻藁の前に立つ。
 ところが矢が一直線に的に突き刺さらない。ほぼ右方向から斜めに入る。
 自己流で試行錯誤を繰り返すが修正することがどうしても叶わない。
 流儀の基本に忠実であるべき本居 ( もとい )の姿勢に重大な欠陥があったとしか言いようがない。
 言い換えれば、わたしの根性が捻くれひん曲がっていることに総べて起因しよう。
 思い悩む背後から五反田射手より声が掛かる。
 決して推奨すべきではない、単なる一奇策に過ぎないがと前置きして俗称「チョン懸け」を解説された。
 かつて重き甲冑を纏った戦国武将が弓を射るに際しては「会」から「離」への動作において馬手は弦を放つだけで肘を伸ばした残心姿勢は執らなかったという。
 肘を曲げたまま「離」に至ればぶれることなく一直線に矢は飛ぶのである。
 重大なヒントを得て、わたしは深々と頭を下げた。
 ところが、追い打ちをかけるように後ろから先生は、離してから肘を伸ばすのは最悪で最も忌み嫌うことなのだと厳しき声が掛かった。