老いぼれの愛犬日記《17》

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⑰ 精一杯の世話を焼き愛情を注いでいるのに、この犬はよく脱走をした。
 わたしにしたら脱走常習犯であった。
 とはいっても、リリ自体が鎖を食いちぎって逃げるのではない。
 何のことはない、わたしの繋ぎ方が好い加減で曖昧であるからである。
 ご近所の方が、捕まえましたと引っ張ってきていただいたことも二度や三度ではない。
 家内と二人で捜索すると、それとなくご近所の方々も遠巻きに手助けしてくれることもあった。
 餌を片手に、目の前の至近距離に追い詰めても、すれ違いざまスルリとまた遠ざかる。
 何とも小面憎い奴であった。
 とっ捕まえた折には散々な目に懲らしめてやらねばと云う、わたしの魂胆を全て読み取ってスイスイを逃げ回るのだ。
 息子や孫からは、そんな時でも怒ってはダメだよとよく戒められたものだった。
 そんなリリももういない。
 脱走の真相は、犬なりの種族保存本能に根付いたボーイハントであったのだと云う珍説を人から聞いた。
 そうすりゃ野暮なことをしたものだ。
もしやこのリリに直系の子犬が生じていたものならばと・・・
つまらぬ邪推はよそう。