老いのひとこと

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其の場に立ち会ったわけではない。


仮に立ち会ったにしろ観覧席の遠きよりその一瞬の仕種まで見通すことは此のわたくしには絶対に不可能な事でありましょう。


他人様より伝え聞いた話に過ぎぬが先日の五段の部の形審査で小さなあやまちが命取りになり失敗為さった方がいられたらしい事を漏れ聞いた。


小太刀二本目で仕太刀残心姿勢を表わしおもむろに元の位置に戻る折に右足から下がるべきところを迂闊にも三本目と混同してしまい左足から退いてしまったらしいのです。


些細なミスであったにもかからわず非情にも容赦ない断罪が下りてしまったのだというのです。


充分な残心を示したにも拘らず最後の土壇場に落とし穴が待っていたことになる。


証言者の弁を借りれば残心に至るまでの所作は完璧に近い演武であったらしいのです。


間合いに入った小太刀の刃の向きは右下から真下にして太刀を抑え脇構えになるを見て再び刃を右斜め下にて空かさず入り身で打太刀の咽喉目掛けて一歩攻め込んで打ち下ろされる太刀を頭上にて見事に請け流していたのだとその人は語ったという。


又聞きの又聞きなのでその信憑性の程度は定かではないが審査基準が最近頓に厳しく厳格化してしているやに聞くのです。


裾野が狭まる現況下で底辺拡大ではなく逆の指針を打ち出した全剣連の意図が何処にあるのかはわたしにはよく判らないのだが極めて重大なる英断にも窺がえるのです。