此の世で最早此のわたしの意のままに御することが適うのは「粘土」だけだといみじくも呟いたはずだ。
ところが、此の「陶土」くんにも見放され裏切られたも同然の仕打ちを受けてしまったのだ。
大きなショックでした、少々大袈裟すぎるが目の前が真っ白になり茫然自失した。
全幅の信頼を寄せていたばかりに直撃した失望の反動が大きかったのです。
例の秘中の自家製ブレンド陶土で今回は「茶香炉」に挑んだ。
上下左右のバランスに細心の注意をそそいで提燈型の外枠をやっとの思ひで整えた。
垂れ下がり防止のため下帯で腹巻を幾重にも施し万全を期した。
頃好い乾き具合を見計らい仕上げの操作に入り火入れ口と空気抜きの透かしの彫り物を薄氷を踏む思いで切り進んだ。
その完成の悦びをカメラに納めようと一瞬席を立ち舞い戻ってみれば何のことはない無惨にも見事崩壊しているではないか。
その間、地震発生の情報あるはずもなし恐らくはわたしの歩みで古い建物が軋み微かな風圧がもとで音もなく崩れ去っていったのでありましょう。
此れまさに後の祭り覆水盆に返らずと云えり。
お風呂に浸かりすべて水に流し、サッパリしたところで再度「茶香炉」に再挑戦いたすべくブレンド比率を改めた改良型粘土をせっせと捏ねはじめたではありませんか。