老いのひとこと

イメージ 1




わたしのしがなき自営のお仕事は土日を定休日と定める。


今日は台風の影響か雨の休日となったがいそいそと地下足袋姿で雨傘差してのお出かけです。


安物の雨傘なんてあまり用を成さないものだ、小半時もすればしずくと汗で濡れてしまった。


毎度のコースを行けば老舗の人気焼き肉店に指しかかる。


開店前にも拘らず順番待ちの客人たちで溢れるのだが今日は雨の所為かそんなに多くはない。


一人の素敵なご婦人が椅子に掛け素敵な御み脚を組んでいらっしゃる。


余りにも垢抜けした貴婦人なのでわたしは暫し足を留め見惚れたが何だそんなことかと合点した。


お店の客寄せ商法でマネキンを配置したことに気付いた。


能々観察致せば瞳は空を睨み微動だにしない恰も蝋人形のようにも見えてきた。


上手に仕上げたものだとさらに注視いたせば俄かに人形のみ脚がもじもじと動き始めたではないか。


マネキン人形ではなかった。


生きた生のご婦人であった。


剃髪の鬚面老人が地下足袋姿で足を止めてまじまじ舐めるように凝視するので身の危険を感じられたのでありましょう。


わたしは悪いことをしたことに気付いたがまさか謝るわけにもいかず這う這うの体でその場を後にしたのでした。