老いのひとこと

f:id:takaotm1101101:20210924070941j:plain

水道の蛇口を捻れない。

両手を差しだして顔を洗うことができない。

タオルで手を拭くこともできない。

茶碗の水を前へ捻って捨てようとしても出来ない。

持つ手が危うく茶碗が滑り落ちそうだ。

茶碗の水を口元まで引き寄せるには左手を添えねば出来ない。

風呂場で頭髪を剃れない。

慣れない左手では虎刈りにしかならない。

何気ない日常生活が成り立たなくなった。

日常生活が失われゆく。

悲哀と云うより恐怖だ。

荒んだ気持ちが積み重なって何もかもがいじけゆく。

治療法を懐疑し転院を逡巡し始めるおのれを戒めるしかなかった。

明日に希望を繋ぎながら眠りについた。

翌朝、目覚めと同時に体調の異変に気付く。

右腕が少し動く昨日よりスムーズに動く。

朝一番に治療室へ駆け込む。

改善の兆しがありますねと先生は言う。

日常が戻り希望の光が見え始めましたとわたしは応答する。