2021-09-24 老いのひとこと 水道の蛇口を捻れない。 両手を差しだして顔を洗うことができない。 タオルで手を拭くこともできない。 茶碗の水を前へ捻って捨てようとしても出来ない。 持つ手が危うく茶碗が滑り落ちそうだ。 茶碗の水を口元まで引き寄せるには左手を添えねば出来ない。 風呂場で頭髪を剃れない。 慣れない左手では虎刈りにしかならない。 何気ない日常生活が成り立たなくなった。 日常生活が失われゆく。 悲哀と云うより恐怖だ。 荒んだ気持ちが積み重なって何もかもがいじけゆく。 治療法を懐疑し転院を逡巡し始めるおのれを戒めるしかなかった。 明日に希望を繋ぎながら眠りについた。 翌朝、目覚めと同時に体調の異変に気付く。 右腕が少し動く昨日よりスムーズに動く。 朝一番に治療室へ駆け込む。 改善の兆しがありますねと先生は言う。 日常が戻り希望の光が見え始めましたとわたしは応答する。