老いのひとこと

余りにも天気が好過ぎるのでフルコースを辿ってお目当ての石踏剣山をめざした。

途中、梅の花芽と神社の神様とにご挨拶を交わし裏道に入るが生憎老婦はいない。

其の突き当りに枇杷とダイダイらしき柑橘樹が背中合わせで育ち居るのだが珍しくも其処にロマンスグレーの老紳士が立つ。

「見事な夏ミカンですなあ」と言葉を交わせば「手入れもしないのによく育つダイダイですよ」と言葉が返る。

わたしは出し抜けに厚かましくも図々しく「一つ戴けませんか」と口から突然言葉を発した。

すると「ご存じの通り此の実は毎年放置したままですよ」

「ご入用ならお気軽にどうぞどうぞ」と好意的。

「遠慮なくいただきます」と二つ頂戴した。

トレパンのポケットに捻じ込んだが豪く膨らんで恰好悪かったが公道を堂々と闊歩した。

いや闊歩とは参るはずもなくヨタヨタと足を引き摺った次第だ。

 

早速、皮を微塵に切り果実にも細かく包丁を入れ蜂蜜と共にシロップ煮に仕立てた。

クエン酸を加え味を引き締めた。

甘さ控えめじつに美味い。