老いのひとこと

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無断掲載


県の運転免許センターで認知症検査を受けた際に判定が出るまで一時間半ばかり待たされた。


廊下のベンチでうつらうつらすればお隣のお方が盛んに咳をもようされる。


其の内に其のお方からお声が掛り折角お休み中に咳をして申し訳ないと詫びを入れられるではないか。


今時珍しい御仁ではありませんか。


世間話を交わす内に失礼ですがお生まれは昭和何年でしょうかと問い質せば何と大正14年の九十三歳ですと言葉が返る。


同年輩と思いきや十歳以上の大兄であられ頭が下がる。


そのお歳で免許更新とは我ら若造には励みであり鑑のようです是非わたくしも肖りたいものだと申し述べた。


話題は自ずと戦時に移り氏は外でもない若き血潮に漲る七つボタンと桜に錨の予科練生で在られたのです。


その生々しいお話をわたしの目の前で歴史の証人が惜しげもなく開陳している。


生の体験者からの歴史の証言に直に接する光栄に再び頭が自ずと下がりゆくのです。


神風特攻隊の申し子に違いなく九死に一生を得た得難きお話でした。


配属された佐伯海軍航空隊でのグライダー操縦中のアクシデントが御仁に生きる運命を天から授かった。


怪我の功名だと苦々しく自嘲なされたのです。


広島での原爆被災地での生々しい描写をも再現なされました。


丁度その時受付窓口よりわたしの名前が呼び出され先方様の御芳名すら聞き出さず仕舞いに終わった次第なのだ。


貴重なる語り部からわたしへの最後の伝言は更新手続きでの幸運を祈るの一言でした。


立派なお方でした。