老いのひとこと

実に取るに足らない馬鹿げたことをもわたしの人生記録に留め置かねばならない。

大きめの手水鉢に金魚を二匹飼い慣らす、もうかれこれ十年近い長寿魚だ、夕刻の給餌1回だけだったが丸々とよく育ち身長10センチもあろう化け物になった。

ところが給餌に失敗を仕出かし雨で湿らせ腐敗し始めたゴールドプロスを与えた所為か彼らは体調を崩し深みに身を潜め姿を見せなくなった。

成仏したのなら水面に異変が現われる筈だと暫しの間凝視すれば或る日のこと何んと驚く勿れメダカらしき小魚が浮上し見え隠れするではないか。

放流した身に覚えは更々ないメダカではない。

稚魚ではないか、彼らは番で種族を保存してから他界したのだとすれば猶も大きな驚きだ。

新しい餌を水面に浮かせば小さな口に頬張るように飲み込む姿がいじらしい。

呆気にとられカメラを取り出すチャンスを失って仕舞った大失策だった。

実は間を置かずして水中がうごめき始めたと思いきや激しく渦巻き怪物のような二匹が姿を見せたではないか。

生きていたのだ、満を持して自然治癒を待って居たのだろうか。

以来給餌の折には水面が逆巻き稚魚見出し難し。

今度は幼き二世の安否が気掛かりだ。

遺憾ながら其の後は姿を見せようとはしないのだ。