老いのひとこと

時代劇の秀作「蝉しぐれ」も然ることながら、あの真夏の情景「蝉しぐれ」を此の夏はどうしたことか耳に入って来ないのだ。

晩春から初夏にはニイニイ蝉が盛夏にはアブラ蝉が喧騒を奏で晩夏から初秋にかけてはミンミン蝉とツクツク法師が季節の移ろいを告げて呉れた筈なのに何んと淋しいことだろうか。

此の奏でる風物詩が此のわたしからは消えてしまったようだ、随分と難聴傾向が早まったようなのだ。

 

家内に尋ねればセミの鳴き声は聞こえるという。

 

あぶら汗を滲ませながらあぶら蝉のジージー声が耳の底にこびり付いた夏の思い出が今年は思い出せない。

石踏み公園の桜の樹皮をみても此のわたしの目には一匹たりとも見えやしない。

シュッとおしっこを掛けられることもない。

 

 

目も随分悪くなったものだと嘆き悲しむ。