下手糞老いぼれ球児の独り言ーその2

* 額谷に  虹架かりてや  大飛球
七瀬川が刻む渓谷が額谷に他ならない。季節を問わず此の川筋に沿って山霧の発生を見る。低く垂れ込めた霧のような雲が何時とはなく取り払われてゆく その矢先に大きな虹が出現するのである。そして 我らが打球があたかも渡り初めをするかのように悠然と横切ってゆくのである。虹は夏の季語] 
* 百足の  ムカデお出まし  今日の入り
[額谷は適度の湿地で蚣の生息地だ。百本足のムカデは客足がつくといって縁起のよい生き物でもある。ぞろぞろとお出ましとは行かないまでも先日一匹お目にかかった。今日の観衆はムカデのお出ましで何とか相当の入りになったことになる。ムカデは夏の季語]
* 天高し  毬舞い上がる  空青し
[どこまでも澄み切った青空に白き打球が舞い上がった。毬のように軽やかに何時になく滞空時間が長く見えた。天高しは秋の季語]
* 渡り鳥  地表に捉えし  五つ星
[渡り鳥の群れが上空を悠然と横切っている。さぞかし眼下に捉えた額谷球場で小さく動く五つの物体を現認したことだろう。地上の星 地上の五つ星なのだ。渡り鳥は秋の季語]
* めずらしや(珍客に)  木の子揃いて  外野席
[雨上がりの今日 8月25日レフト側外野の芝に木の子を現認した。モタセの類いの雑苔だ。食に供するには相当の勇気を要するだろう。しかし 整然と整列するように行儀よく並んで観戦中だ。採集するには愛おしくそおっとして置いた。正に珍客に違いなく我らのフアン層の厚さに驚くばかりなのだ。木の子は秋の季語]
* 日溜まりに  木の子集いて  観戦す
* 木の子まで  仲間入りする  フアン層
* 九月三日  草野球の日  降雨ドロー
[9月3日の日は草野球の日というらしい。なるほど9と3なら草となろう。生憎の雨で皆にとっては骨休みの日と相成った]
* 秋空に  もの思う鳶  喝が飛ぶ
[樹木の梢より遥か彼方の天空に今日は孤高の鳥 鳶が一羽現われたではないか。 翼を広げ悠然と舞う姿は神々しくも見える。その時 あたかも地表の獲物に襲い掛かるかのように急降下を試みつつピィヒョロロの鳴き声を残して再び彼方へ飛び去ったのである。凡フライを捕り損ねた私のプレーへの一喝だった]
* メン揃い  ハッスルプレーの  秋日和
[洋行帰りのHASATANI氏を久方ぶりに迎え全メンバーが揃ったのである。氏の際立つファインプレーが目を引いたのである。しかし、先から呼んでも後から呼べども六名に違いがない。でも何時になく皆ハッスルプレーに興じたのである。9月8日その日は絶好の清々しい秋日和でもあった]
* 秋陽さす  姫登場に  気しょくばむ
[年甲斐もなく姫登場に喜色満面 あたかも皆少年時代に返ったが如くに今日もハッスルプレーに花を咲かせたのである。9月9日の出来事でした。もっとも固唾を呑む程の事でも気色ばむ出来事でもない単なる幻想妄想を面白おかしくね]
* 雨が来て  帰りしあとの  秋の空
[こんなことも珍しい。突然の降雨に見舞われ敢え無く皆は帰路についたのである。ところが何と二、三分も経たぬ内に秋の日差しが降り注いだではないか。やはり秋の空なのである]



* 打ち終えて  くつろぐたもと  金木犀
* 憩うれば  あっちこっちの  金木犀
[10月秋たけなわ、其処此処の庭園の金木犀が一斉に咲き乱れ香しき空気を漂わす。いやが上にも今日ある生を享受し悦びが満身に満つる。しかし今にして思えば、老躯には相当の体力消耗、疲労の色濃くベンチにくつろげばあっちこっちの金木犀が四方八方から癒しの安らぎを匂わせるのである。金木犀は秋の季語]
* 木犀や  薄れ遠のく  うたげ後
[季節の移ろいは無情だ。中旬を過ぎる頃に至ればおのずと精力が衰えを見せ始め次第に薄れ遠のく盛者必衰の理に哀感を募らせざるを得ないのである。さらばよ、また来る次のシーズンまで]
* 円陣で  肩組み(杯酌み)交わす  月見の宴
* 六人衆  名月めでる  名船かな
[花見あれば月見もよし。10月13日は体育の日をもって料亭「名船」に相集い饗宴を持つに至る。満月には満ち足りぬ月ではあったが、六人衆にとってはこの上ない名月に映ったのである。月見、名月ともに季語]
* 秋高し  球高く飛ぶ  悠然と
[大陸からの高気圧に支配され秋らしい好天が続く。一点の雲無き青空に吸い取られるように打球がどこどこまでも舞い上がる。ニュートンの万有の法則が一瞬途絶えてしまったのかと勘ぐったのである]
* 錦秋の  樹樹に囲まる  六人衆
[球場を取り巻く広葉樹の色つきが日ごとに増してきた。今を盛りに紅葉が美しい。色とりどりの樹々に囲まれてプレーできる悦びを享受しようではありませんか。今や七人衆、八人衆でもある]
* 紅葉狩り  しながら興ず  野球キチ
* 勢揃い  打ち解ける仲  秋去りぬ
[盛夏の頃谷中氏が幾度か参戦し、晩秋の頃には野村氏が仲間入りされ最早打ち解ける仲ともいえよう。日一日秋も深まり早初冬を迎えてしまったではないか]
* 右中間  セキレイ抜けて  拍手かな
[つがいと思しき二羽のセグロセキレイがいきなり球場に闖入した。みなプレーを中断して凝視した。地表を這うがごとくに猛スピードで低空飛行する。急旋回を試みつつもフイールド狭しと飛び回る。スリリングなショウに思わず拍手が起こる。ツバメの比ではない。セキレイは秋の季語]
* ライト線  セキレイ乱舞  秋に映ゆ
* 落ち葉舞う  外野の空席  わびしけれ
[季節の移ろいは何とも心悲しくもセンチなる感傷に浸らざるを得ないのである。われらを終始見守り続けた額谷の樹樹の葉も自らの使命を全うし梢を離れ地表に舞い落ち自然に帰るのである。]
* ヤンキース  野球の故郷  秋に愛で
[ヤンキーたちの国技であるノボールにわれらは興じている。このベースボールの故郷からビッグニュースが届いたのである]
* ヤンキーの  屁のかおり秋  風にのる
サブプライムローン問題に端を発したミゾユウの金融危機、金融資本主義の破綻、新自由主義思想の崩壊、底の見えないイラク戦争の行方等々でアメリカ人たちは皆等しく戸惑いながら閉塞感を味わっていた。腸閉塞のようなお腹の張りからものの見事に猛烈なる放屁をした。屁の芳しい臭いが海を渡って我らの下にも届けられたのである。オバマ当選の朗報が我らの下に届いたのである]
* デモクラシー  建国魂  秋に燃ゆ
オバマは言う。わたしの勝利にはあらず、民主主義の勝利でありアメリカ人の勝利なんだと、何と心憎いばかりの至言なのだろう。今以ってフロンテイアスピリッツが脈々と流れ軌道修正を敢行する復元力はさすがアメリカなりと羨ましい限りなり]
* 秋青し  イエスウイキャン  オーオバマ
アメリカ民主党のシンボルカラーは青色だという。あたり一面の視界が瞬時にして真っ青に映ったのである。まさにアメリカンドリームが健在であった。オバマの勝利宣言に皆が興奮し感動し感涙に咽んだ。老いも若きも黒人も白人もヒスパニックもエージアンも皆惜しげもなく目に涙して Yes we canの合唱に酔いしれた。みなオバマニアになった]
* リンカーン  ケネデイオバマと  咲く大輪
[時あたかも菊花爛漫の候 そこかしこで菊の大輪が咲き誇っている。エブラハム・リンカーン ジョン・F・ケネデイに匹敵する大輪が見事に開花したことになる。期待大なる故に失望が大きくならなければよいが]  
* 快晴に  球遊びかな  息白し
[終日小春日和に恵まれた。透き通った青空に一点の雲とてない。但し移動性高気圧に被われた関係で放射冷却現象が著しい。誰しも吐く息が白い。そんな日に健気にも嬉々とした面たちでノボールに興じたのである]
* 枯れ芝に  球追う人の  勇姿かな
[お世辞にも外野の芝とは言えまい。でも雑草まがいのグリーンであっても我らにとっては掛け替えのないもの。眼を癒す外野の緑も冬の到来と共に茶枯れた枯芝と化した。そんな中 懸命に球を追う老士の姿が痛々しくもいじらしい。枯芝は冬の季語]
* 水洟を  すすりながらの  外野守備
[老化現象の現われか無性に鼻水がでる。尾籠なことながら水洟をすすりながら外野の守備に就くのである。でも球が来るのも待つだけでは芸がない。打球を呼び込む攻めの気勢で事に当たらねばなるまいぞ。水洟は季語]
* 凍え手で  打ち納めかな  七人衆
[此処のところ冬晴れの好天が続く。但し初冬の冷え込みも著しい。手がかじかんでままならない。或いはひょっとして今年の撃ち納めとなりは終いかと皆そう思いつつフルスイングを試みるのである。凍え手が季語]
* 水溜り  避けて小走る  師走かな
[低気圧が発生し冬型気圧配置。寒冷前線の通過とともに冬将軍様のお通りだ。我らがグランドもポンドと化し辺りの景観を一変させる。しかし抜群の吸水力で水はけは実に良好。はやる意中を抑えながらもグランドに下り水溜まりを避けながら所狭しと駆けずり回る。時候まさに師走の真っ只中]
* 霜降れど  グランド(マウンド)に立つ  愚直(律儀)者
[我らにはシーズンオフという言葉はないに等しい。雪が降ろうが槍が降ろうが霜柱が立とうが構うことなく執念を貫く。只ならぬ情熱を注ぐ。老骨に鞭打つ凄まじき気概 まさに老いの一徹。その中心的存在は言わずと知れた・・・]
* 捨て球(悪く球)に  喰らいつく野暮  こぞ今年
[選球眼を養うのも野球のテクニックの大事な要素のひとつでしょう。ところが所詮試合には無縁なるものにはとにかく来た球には感謝をこめて一心に振りぬくことに価値を見出し常日頃よりヒツトエンドランのみに意を注ぐ。生来のがめつき根性がわざわいしているのでしょう。行く年来る年いつになっても馬鹿は馬鹿。こぞ今年が季語]
* 年忘れ  野球談議の  つみれかな
* 自分色  なるべくうすき(淡き)  おでん味
* 自分色  伏せて洒脱な  冬の味