下手糞老いぼれ剣士より少年剣士へ

Aくんのつぶやき
今流行(はやり)のツイッターのようにつぶやいた
時計を見上げてつぶやいた
時計に向かってつぶやいた
時計の中に入ってしまった自分に向かってつぶやいた
××時になったら“家に帰るんだ”とつぶやいた
雄叫(おたけ)びだけが充満(じゅうまん)するこの荒々しい空間(くうかん)がいやになった
逃げ出したいくらいに息苦(いきぐる)しさを感じた
くつろげる安息(あんそく)の場(ば)が恋(こい)しくなった
“家に帰るんだ”と再(ふたた)びつぶやいた
もう一人の自分が続(つづ)けてつぶやいた
刻一刻(こくいっこく)と時は刻(きざ)んでいるではないかとつぶやいた
とてものろまだが時計の針(はり)は動いているではないかとつぶやいた
二人の自分が自分の中で激(はげ)しく言い争いながら格闘(かくとう)し始めた
そのうちあたりが静かになって何も聞こえなくなった
時の経過(けいか)がすべてを解決(かいけつ)した何時(いつ)の間にか二人目の自分が勝ったではないか
終了(しゅうりょう)のゴングが高らかに鳴(な)り響(ひび)いた
“ヤッター”と叫(さけ)ぶようにつぶやいたがこの声は誰(だれ)にも聞こえなかった
その時不思議な力が湧(わ)いてくる自分に気がついた
いつもの自分と違う自分と向き合っている自分にいま気がついた
Aくんほど自分自身に正直(しょうじき)な人はいない自分の心に忠実(ちゅうじつ)な人はいない
Aくんのような人はどこにでもいる ほらここにも あそこにも