下手糞老いぼれ剣士の独り言

挫(くじ)けそうになってしまう心
弱(よわ)い心 在(あ)ってはならない心 在(あ)らざる心 非(ひ)なる心
正しくない心 間違っている心 悪い心 道理(どうり)に合わない心
さぼりたい心 ずる休みをしたい心 逃げて帰りたい心
このような挫(くじ)けてしまいそうになる弱い心は誰しも人間ならば持ち合せます
それだからこそ歯が痛くても少々頭が痛くてもお腹が痛くても宿題がたくさん出た日でも
かんかん照りの猛暑(もうしょ)の日でも猛(もう)吹雪(ふぶき)の真(ま)っ只中(ただなか)にもめげず怯(ひる)まず道場(どうじょう)の床(ゆか)を踏(ふ)む
防具を着装(ちゃくそう)し面(めん)紐(ひも)をビシンビシンと張(は)り詰(つ)めれば在らざる心 非なる心は吹っ飛ぶ

剣道はこの挫けてしまいそうな弱々しい心を打ちのめす強い心を育てるためにするのです
上手(じょうず)にお面を打ったりお小手を取ったりすることも大事だけどそれ以上に大事かもしれない
昔江戸時代に神谷伝心斎頼(かみたにでんしんさいより)春(はる)というお侍がいました
鹿島(かしま)神流(しんりゅう)第五代正統者(せいとうしゃ)というとても名高いお方なのです
年を取ってから名前を改(あらた)めて紙屋(かみや)伝心(でんしん)と蔑(さげす)み隠遁(いんとん)しました
この名高き剣客(けんきゃく)が、剣による勝負は人による乱心(らんしん)の末(すえ)の憐(あわ)れなる姿(すがた)に過(す)ぎずない、人を斬(き)る先に先ず己(おのれ)の在らざる心 非なる心 非心(ひしん)を斬ってこそ本当の武士なのだと主張した
実(じつ)に天晴(あっぱれ)れなる人物 で殺戮(さつりく)行為(こうい)が日常(にちじょう)茶飯事(さはんじ)の世に実に稀有(けう)なる見上げた人物に違いない
孔子(こうし)を学び儒教(じゅきょう)の教えを尊(たっと)び仁義(じんぎ)礼(れい)智(ち)信(しん)の五常(ごじょう)を説き無我(むが)無念(むねん)の直(じき)心(しん)を貫(つらぬ)き通した
剣を交えて人を切ってしまうことより自分自身の非なる心、非心(ひしん)を切る即(すなわ)ち非切(ひせつ)をもって剣の極意(ごくい)とした風変わりなお侍さんがいたことを知ろう
剣道は勝負を競い合います 負けるより勝つに越したことはない
確かに勝たねばならないのではあるが、その事に執着してはいけない
勝負に勝つことは自分自身に勝つこと、己(おのれ)との勝負に勝つことの大切さを
教えてくれている