下手糞老いぼれ球児の独り言

の(野)ぼーる(球)を詠む

体育館に隣接して簡易野球場がある。年老いし元球児たちが三々五々玉遊びに興じている。
互いに投げて打って、打球を処理する。浅く守ってゴロをさばき、外野飛球を捕球する。
みな少年時代の往時を蘇えすべく懸命だ。およそ二時間の一時が瞬時に過ぎ去る。その間談笑も絶えることなく、和気藹々の仲だ。
野球を愛で桜花を愛で、また秋月を愛でて、更に酒を愛でながら互いに親睦を深める仲になった。
処がどうしたことか次第に仲間入りが増して大世帯化していった。
既にチーム編成が叶のう程の人数を数え中にはユニホーム姿で颯爽と登場し対好試合を画策する所までの大発展を見届けた時点でわたしは遂に引退を決意した。
既にわたしの出る幕ではないことに気付いたわけだ。

* 老い桜  宴に集う  球の虫

* 球追って  伸ばす手許の  すみれ草

* 球を打つ  響きに合わせて  ホーホケキョ

* 球追って  差し出すグラブに  春つかむ

* 快音を  残す彼方に  ひばり鳴く

* 春風に  乗って飛ぶ球  垣根越し

* 額谷に  春来て集う  野球帽

* 一汗の  あとの憩いに  桜舞う

* 練習の  あとの宴や  春うらら

* 打ち守る  人影まばらな  春の昼

* 野球好き  集う額谷  子規忌かな

◎ まり投げて  みたき広場や  春の草  (正岡子規) 

* 前向きに  真夏に集う  老球児
[洋行中の架谷氏を除く五名の常連が性懲りもなく額谷に相集い前向きに直向きに取り組む姿は正に老いの一徹というところ]
* じりじりと  身を焦がしても  球の虫
[じりじりと夏の太陽が照り付けても連中は片意地を張るように野球に勤しむのである。やはり、野球の虫というところ]
* 灼熱の  グランドに勇姿  今日もまた
[老骨に鞭打ってでも表向きは実に平然とした風情で灼熱のグランドに立ち日焼け顔に白い歯を見せながらキャッチボールに興ずる。そのグラブを敲く心地よい快音が額谷一円に響き渡るのである]
* 夢を追い  球追いし夏  年老ゆる
[童心に帰り幼き頃を思い出しながらグランドを所狭しと駆けずり回ったあの頃の夏を懐かしみながら、それでも我らはいやが上にも老いてゆかねばならぬ定めにあるのである。また一つ年を取る。最長老はYUASA氏で近近中に栄えある後期高齢者の仲間入りをされる。実に赫灼たるもの]
* ひまわりや  並びて皆も  咲き競う
[今を盛りにひまわり畑では大輪が咲き競っている。我こそはと無心に競い合っている。我らとて皆夫々今日のヒーロ-足らんと手抜きすることもなく身一杯精一杯真摯に取り組むのである。ひまわりは夏の季語]
* 打つ球が  伸びる彼方に  ツバメ舞う
[芯で捉えたライナー性の打球は殊の外よく伸びる。その球をあたかも追いかけるように一羽のツバメが追跡し追い抜いていった。一瞬の出来事であった]
* 飛行機雲  よぎる白球  ツバメ追う
[額谷の天空には遮るものがなにもない。電柱も鉄塔も勿論電線もない。一点の雲もないのどかな春の空に純白の一筋の飛行機雲が流れる。大きな飛球があたかもそれを跨ぐかのように横切る。すかさずにツバメが一羽ボールを追跡する。茶目っ気のあるツバメである。ツバメは春の季語]
* 野球きち  今日も集いて  涼談義
[不快指数高いジメジメした日には皆一様に動きが鈍い。それでも我ら野球狂は決して休むことなく連日打ち投げ捕って興ずるのである。しかし、そんな日はベンチにて談義に興ずることも時にはあるのである]
* 額谷に  佇む秋の  影法師
[額谷の自然を目の当たりにしてノボールに興ずれば時の移ろいをいやが上にも感ぜざるを得ないのである。秋きぬと 目には定かに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる なのである。 最早初秋の光の人影なのである]
* 夏過ぎて  佇む球児の 影長し
[真っ黒に日焼けした額クラブの球児たちには一夏の成長の跡がありありと映っている。心持背丈も伸びたようだ。立秋も過ぎ太陽光にも変化が見える。彼らの人影が長く見えても仕方がない]
* 日脚早や  球追いし日々  秋立ちぬ
[何時の間にか立秋も過ぎた。日一日と日脚も早くなり秋の気配が漂う。老春を楽しむ我らにも皆等しく加齢という歓迎せざる宿命が覆いかぶさってくるのである。皆無言で受け入れざるを得ないのである。]
* 風死して  したたる汗や  野球帽
[前線が停滞し不快指数たかし。まさに無風状態 じっとしているだけで玉のような汗が滴り落ちる。Tシャツが身体にまつわり何とも不快そのもの。お互いに薄くなった御髪からは遠慮なく多量発汗 益々もって目がかすむではないか。一人タオルを巻く変人あり。汗が季語、夏]
* 炎天下  観戦するは  カラス二羽
[額谷の自然は美しい。額谷の自然は静寂だ。いつもライトのフエンスにて常連のカラスが二羽我らの演ずるプレーを観戦している。恐らく声援しているのだろうが額谷の自然の中に吸い込まれて何も聞こえない]
* 秋風に  乗って白球  フェンス越え
[湿度が低く空気が見事に乾燥している。順風追い風に乗って大飛球は柵越え大ホームランの連発。 言わずと知れたチーム一のスラッガーOKINO四番打者である。愛用のバット“ビィヨンデ”が炸裂する。本日は体調良好と見る]
* 整地する  背中に炎天  容赦なく
[撃ち 守り 走り 捕り 拾い 返球する。此のローテンションの二順目を終えれば相当の疲労度を覚える。そして 整地作業が当然待っている。MIYATA監督兼コーチから指示が飛ぶ。手抜きは赦されない。容赦なく真夏の太陽が脳天に降り注ぐ。目がくらくらする。意外とトンボが重い。これこそが野球人のマナーなりとコーチからの激が飛ぶ]
* 切れる弾(伸びる球)  返しの妙用  夏試練
[手首の返し 野球ではスナップと言うらしい。刃筋の通った絶妙の返しの効用を会得したいものだ。夏こそその試練のときだろう]
* 額谷に  ふれあうよしみ  又の秋
[間もなくして架谷氏が合流することだろう。ここ額谷の地に野球を通じて相集い 相触れ合った仲間の誼で またの次年においても同じように相集い 相触れ合う機会の再来を願わざるを得ないのである]
* 夏の雨  さばきのグラブ  軽やかに
[雨降って地固まる。一雨降った後のグランドコンデションは良好で捕球には好都合。好プレイ続出というところなり]
* 球弾み  心はずみて  みちしるべ
[カラッと空気が乾いた好天の日はプレーしていても気持ちがよい。どことなく心弾みてルンルン気分。当然ボールも弾んで快音を残してくれるではないか。そんな日には 額谷の山道をそぞろ歩めばどこからともなく斑猫と称する昆虫が現われ歩く者の道案内を買って出るのである。実に軽快なのである。ハンミョウともいいみちしるべとも称するのである。ハンミョウは夏の季語になっている]
* 八六に  黙祷捧ぐ  球児たち
[8月6日は広島の原爆記念日。額球児も甲子園球児もそして我らとて平和な日々に思いを新たに黙祷を捧げようではないか。いや敬虔なる想いで黙祷を捧げるべきだと思うのである。野球の出来る今日の日を共々喜ぶべきだと思う]
* 振り捲くる  付きまとう汗  裾を巻く
[例年にない酷暑 とにかく暑い 吹き出る汗。しかし それを諸ともせずにバッターボックスにて満身の力で振り捲くるフルスイングなり。着衣が身体に纏わり付くのである。汗が裾もとにまで流れ落ちるのである。汗は夏の季語]
* 空青し  舞う球白し  赤とんぼ
[もう秋ではないか。空の色が青い。どことん青い。白き打球が飛ぶ。そこに無数の赤とんぼ。赤白青のコントラスト素晴らしいではないか。トンボが季語、秋]
* 球を打つ  グランドに立ち  夏に生く
[今日も生をたまわった喜びを享受する。グランドに立ち野球に興ずることが叶った事へ素直に喜びを噛みしめねばならない。益してや真夏の炎天下に立つことができた喜びを噛みしめようではないか。立つのみならず所狭しと韋駄天のように駆けずり回るチーム一の健脚の持ち主は言わずと知れたYOSIDA氏なり]
* ボックスに あだ花狂い  咲きにけり
[儚く散り行く花のような季節はずれの徒花が額谷の野に咲いたのである。バッターボックスに狂い咲きしたことになる。狂い咲きは冬の季語で季節感が少しおかしい]
* 夏の野に  好守備みせし  紅一点
[絶妙のグラブ捌き。華麗なるプレーが真夏の此処額谷のフィールドで披露された。皆唖然として見惚れたのである]
* 今日の野に  淡雪はかなく  消えにけり
[それは夢物語のように悄然と消えた。それはあたかも春の淡雪のように悄然と消えていってしまったのである]
* 複眼の  とんぼよ鳥瞰  外野席
[いよいよトンボのお出ましのシーズンを迎えた。いつも閑散とした外野席は満席 あたかも立ち見席からの鳥瞰図を見るが如くにトンボの無数の目は我らをしっかり捉えているのである。トンボは秋の季語]
* 複眼の  とんぼぞ観衆  草野球
[草野球ならではのこと。たとえ複眼であれトンボであれ とにかく大観衆が詰め掛けてくれたことに感謝しようではないか]
* 観衆の  とんぼぞ沸いて  大入りぞ
[今日はネット裏はもとより内外野共に大入り満席。大入り袋が飛ぶように出る。トンボ様様なのである]
* フィールドに  バッタの競演  二軍戦
[夏枯れ状態から甦った外野の芝は日ごとに緑を増す。グリーンのフィルドは言わずと知れたバッタの自生地。我らがこよなく愛する額谷球場は自然と共生する さしずめ二軍戦が取り行われる場末の球場に似ているのである。バッタは秋の季語]