下手糞老いぼれ剣士の独り言

素足の効用

素足の上に靴下を纏い靴を履く。当たり前なことながら、やはり締め付け厳しく圧迫感は免れがたい。鬱血感と皮膚呼吸上の窒息感を覚える。
その点、裸足はすっからかんで至って開放的。大地の感触が直に伝わり、地球の温もりや息吹のようなものとの饒舌なる対話が成りたつ。
それに引きかえ道場は静謐だ。埃ひとつなく床はあめ色の光沢を放つ。
われは道場の床を踏む。摺り足にて足をば捌く。身が締まる厳粛なる感触が伝わる。
われは、そこをひた走る。おもむろに、両の足に加重と抜重を繰り返しながら的確なる重心移動を試みる。上下の凹凸なくスムーズに、しかもリズミカルにナンバ走りにこだわる。
足は第二の心臓だと言う。また、足の裏には無数のツボがあり、体内の五臓六腑の働きに密接に繋がっている。
素足なら足の裏のそのツボを、その末梢神経を程よく刺激して血行と血液循環を促し、体内の生理機能を高めるのだという。
更には、抜重されて空中にある足の筋肉は弛緩し、血管は開き血液は足の裏方向へ流れ落ちる。
次いで、着地し指先運動に移り加重されれば足の筋肉は収縮し、自ずと血管は絞られて血液は心臓へ押し出されるように逆流することと相成ろう。まさに第二の心臓となる。
われら体内に存する凡そ六百五十種の筋肉のうち、その約三分の二以上が足という下半身部にあるのだという。
この下半身の筋肉の働きが毛細血管の収縮作用を呼び込み静脈の流れを引力に逆らいつつも心臓へと逆流させるポンプの役割を果たし続けているのである。
何とも不可思議なる生体のメカニズムではなかろうか。