老いぼれの犬日記《9》

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9 原因はどこに
 
 医師の云うには物理的に頭部を殴打したか、もしくは脳細胞に悪性腫瘍が生じたかのいずれかであろうと診断する。
 頭を打つ程度なら日常的によく見られた。特定できるハプニングには心当たりがない。
 CTスキャンするには体力の回復を待たねばならない。
 もどかしさとじれったさに苛まれる。
 仮に脳腫瘍が判明すれば即、絶望の淵に陥るだけではないか。
 兎に角、万に一つの望みをCTによる科学的解析力と天の神様の余沢に託すしかない。
 息子から前庭疾患の情報をもらったが、とにかく生命の維持存続を願って最善の策を講ずるより他仕様がない。
 それでもCDを決断できぬおのれの弱さを知る。
 夜な夜な断末魔の叫びに似た悲鳴に接しながら長くて遅々とした時計の針に ( さいな )まれる連夜だ。
 でも、これらを試練として受け入れながら愛犬のために奉仕しなければならない。
 睡眠不足と介護疲れで頭が混濁している。
 恐らくわたくし以上に、この老犬の頭の中は癲癇様発作と薬物による抑制で混濁の極みにあることだろう。
 
 小さき個体ながら、与えられた生命のともし火を体裁構わず一心不乱になって守り続けようとしている姿は実に崇高だ。
 神々 (こうごう)しく見える。
 
 8月23日、CTスキャンにて右脳側室部付近に腫瘍を確認したとの医師からの宣告聞く。
 余命はせいぜい一週間か二週間と冷酷なお告げを受ける。
 やはり駄目だった。