準備おさおさ怠りなく何事も万端整えて大魚の到来を待ちうける此のピリピリした緊張感は太公望のみが知る。
朝靄立ち込める湖面の葦陰にそっと船を止めおもむろに丸浮の付いた仕掛けを沈めた。
尺鮒がもんどりうって水面に踊り出て
テグスを引けばみごと?網のなか・・・
なんとこの齢になって未だテグスとテグスネを混同していた。
弓具の中の一つに「くすね」なるものがあることを弓の先生から聞いた。
漢字で「薬煉」と表すらしい。
松脂にゴマ油を混ぜて煮詰めたものらしい。
確かに松ヤニだから滑りにくくなろう。
そういえば野球のピッチャーはロジンバックにしょっちゅう手にしていよう。
鉄砲伝来以前の武田の騎馬武者華やかなり頃には弓は素晴らしき武器であったであろう。
弓を執る弓手に『薬煉』を塗って手の滑りを取り去り敵の襲来を固唾をのんで待ち臨んだのだろう。
手が滑れば「弓返り」し二の矢三の矢を番えるのに手間取ってしまう。
生死を分ける戦闘の修羅場には弦を返す暇すらなかったのでしょう。
『手薬煉をひく』とは弓手に「クスネ」を塗ってひたすら敵を待つ事だと教わった。
成るほどと大いに感心しながらも此のわたしは「テグスをひいて」大漁を待ち望んだ事だと勘違いしていたおのれの次元の低さに些か恥ずかしい思いにさせられたのでした。
これまた、次元の異なる事柄ではあるが
鶴来道場での日曜会稽古の際にロジンバックを携えて参加してみようとふと思い立った。
「テグスネをひく」ではなく「足薬煉をひく」ことになる。
益々以って破廉恥すぎよう。