上っ面の美味しいところだけを摘まみ食いする奴ほど下種なものはない。
何も知らないくせに上辺だけを見せびらかして恰も自分の手柄の様に振る舞う奴はもっと嫌らしい。
之はこの種の類かも知れない。
太田垣蓮月の詠んだ歌に
「仇味方
勝つも負けるも
哀れなり
同じ御国の人と思へば」
があるのです。
蓮月は短冊にこの歌をさらりとしたためて其れをば凱旋中の西郷隆盛にそろりと近寄り手渡しもうせたと物の本に書いてあった。
77歳の御婆さんの短歌を見て血気盛んな若干39歳の若武者のこころが揺れ動いた。
さだめし、西郷さんも至って風貌も明媚にして異才を放つ今を時めく女流歌人の名声を知らぬはずがない。
蓮月の枯淡の魅力に隆盛も酔い痴れていたのかも知れない。
蓮月さんはやはり女性としてあらがう戦禍を忌み嫌われていたことを知って益々以って贔屓と致さねばばなるまい。
今様にいくさを避けて忌み嫌う短冊を此の国のあの宰相に手渡すほどの洒落っ気に長けた魅惑の女流歌人が突如輩出せんことを心底希う。