老いのひとこと

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淡々と時が流れる。


単調なる変化の乏しい日々がただ流れる。


 


何時もの鶏小屋を伺えばご主人が給餌のお世話の最中ではないか。


わたくしよりはお若く七〇ほどほどのご様子でとても懐っこく気さくなお方には間違いはない。


朝めしの後山へ入るという、ならばご一緒いたしたいと願い出ればいとも易く同意して呉れたのです。


おまけにお近付きのお印だといって産みたてのまだ生温かき卵を二個ばかり手渡してくださった。


殊更、催促いたしたわけでもないので痛く恐縮せざるを得なかった。


早速、卵ぶっかけ飯を掻き込んで約束の七時半に馳せ参じてみたものの本日は鶏たちは連れては参らぬという。


わたくしをばわざわざ案内いたすのだという。


どこまでお人好しなお方なのか計り知れない。


高尾の山といっても其処は何処までも延々と続く竹林の中を蛇行に蛇行を重ねて登りゆく果てにようやくお目当ての箇所にたどり着いた。


其処は決して鶏たちにとっても別世界のような桃源郷足り得るような楽園ではなかった。


薄暗い竹林の崖っぷちの一角に建てられていた。


鶏小屋に併設して作業小屋があり弩でかい薪ストーブが置かれている。


ご主人は薪を燃やして持て成そうと為されたがわたしは固くお遠慮申した。


確かに山頂だけあって冷え込み霙交じりの氷雨にも見舞われ直々に退散を申し出たしだいなのです。


 


山道を走り単調な生活をブッ飛ばすに足る素敵な体験を戴いたことを大いに感謝いたさねばなりません。