野田山のてっぺんにわたしの分身が居座る。
異様な図体をして眼下を見下ろす。
生前に造った墓を寿陵と云って目出度い事なのだと云う。
石屋さんになぜ目出度いか尋ねれば彼方が天国へ召されれば戸惑うことなく即座に此の中に納められ供養されるので目出度いのだと説明される。
成る程と頷くしかない。
処が実は此の中への一番乗りはわたしではなかった。
わたしより先に入るのはわたしのご先祖の遺骨である。
序でに愛犬の分も入れねばならない。
だから厳密にはわたしが一番乗りではないので寿陵には当て嵌まらないことになる。
つまりは目出度さも半分くらいしかない。
そうならば何ゆえ早々と斯くなるものを造ったのかと云えば床の間にあるご先祖の骨壺が気に為る家内からの催促に他ならない。
何はともあれ終活の階段を一段昇れてほっとする。
念のために石の素性を石屋さんに窺えば此の石は京都の亀山産の砥石の原石ではなかろうかと耳寄りな情報を得た。
凝灰岩らしく粒子が荒いので粗砥向きではないでしょうかと教えてもらった。
此の墓の上っ面が扁平なので途轍もない大きな砥石が野田山の山頂に聳え立った。