老いのひとこと

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手塩にかけた愛娘を嫁がせる時は複雑な想いが絡むらしいがわたしは知らない。

 

此れは隈なく読みほぐした愛読書ではない。

ただ単に我が家の書斎にて長らく寝食を共にした間柄だけに過ぎないが此の度は晴れて公の機関へ寄贈本と嫁入りすることと相成った。

ろくに読みもしない書物ながらやはり別れるとすれば哀惜の念がいや増す。

恰も生娘を送り出す思いに相違ない。

芽出度き輿入れの日にもかかわらず思わず手を合わせ幸せで居れよと合掌する。

何時の日にかそっと鶴寿園の書庫に収まる愛娘を伺って参らねばなるまい。