老いのひとこと

浦島太郎が竜宮の乙姫から手渡された玉手箱のようなノスタリジックなロマンは此処には無い。

先日のこと洋服ダンスの奥から此のような物が出て来ましたよと家内から紙製の箱を手渡された。

心当たりが全くない、見たこともない箱なのだ。

何か重大な秘密が隠されていたにしろ大したことではあるまい。

玉手箱を開けてしまった太郎さんのようなハプニングはもう此の齢老いしわたしには在り得ぬことと気安く蓋を開ければ此れ又ビックリおののいた。

背中がこそがゆくもあり何よりも家内の裏技のような偉業に恐れ入った。

 

断捨離名人の家内にしては些かの異変に違いない。

何の足しにもならない給料明細書をご丁寧にも保管して呉れていたのだ。

昭和の末年から平成7年の定年退職時まで凡そ10年間の永きに亘る記録なのだ。

惜しむらくは家内と世帯を共にした昭和40年以降のいにしえの分は転居の際に何処かへ散逸して今はない。

何やかやと数え切れない辛苦を共にしながら我が家の家計を我が家内は静かに支えて呉れていた。

此の累積した明細書の束はお札の束以上に値打ち物だ。

捨てる訳には行くまい。