老いのひとこと

雪が来る前の我が生業の一断面になる。

 

石踏みを済ませ直ぐ横のベンチでくつろぎ何気なく目線を挙げれば額温泉の煙突から黒煙がなびくではないか。長期休業を強いられた御風呂屋さんが一年数か月ぶりに営業再開か、しばし目を遣りカメラに納めた。

やおら席を立ち楓並木を家路に就いた、初冬の柔らかい日差しを背中に浴びてそぞろ歩けば、何か得体知れない天からのお告げを肌で感じたらしく足元ならぬ手元を見れば素手のままだ。

はてな手袋は、捜すが無い、今日は手袋を着用したかも思い出せない。

暫し佇み居ればおぼろげに思い付いた、そうだ煙突撮影で手袋を脱いだことを思い出した。

ベンチに置き忘れに気付いた。

古びた接ぎだらけの愛用の皮手袋、其の愛着心がぼろぼろの記憶を蘇えらせて呉れたのだ。

認知症の度合いは幾許か一度脳神経の専門医の門を叩いてみよう。

 

ベンチに戻れば靡いていた黒煙は姿を消した、ボイラーの。試運転だったのであろう。

営業再開はまだ先のようだ。

 

道に迷うことなく家には帰れた。