老いのひとこと

トウモロコシにガブリ付いた、ジューシーな甘みが口の中に染み込む、しめしめと二口目をやれば痛みこそ感じなかったが何かしら異物があることに気付く、石ころがトウモロコシに混入するとは有り得ぬとおもむろに吐き出せば歯の破片ではないか。

又しても不覚を執ったかとベロの先で探ればあるべきものが無い。

迂闊にも宝物を失ったと悄気返り矢木歯科へ急ぐ、行ってびっくり玄関に休館の張り紙、「長い間本当に有難うございました」と院長先生直々の文字を見て此方もジーンと悲しくなりました。

途方に暮れ乍ら、最寄りの林歯科を見付け、事情を告げ

「何とかして此の歯を助けてやってください」と懇願いたせば先生は口内を覗くことなく「一日待ってください」「明日までに何とかいたしましょう」と言うではないか。

「いや今お願いできませんか」と食い下がれば先生は困惑そうに「此の前の入歯は摩耗しているので序でに修理させて戴きますよ」とおっしゃる。

此のドンは漸く欠損箇所は生の歯ではなく入れ歯であることに気付いたのだ。

今日もまた認知症の患者さんが来院したなと思わせるだけの頓馬な結末でした。

でも本当に助かりました、有り難いことでした。