老いぼれへぼ教師の回想記《73》

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 かつてはソ連アメリカ合衆国に次ぐ粗鋼生産の実力を囲っていた。
 当時においては、単体企業としては新日鉄はU・Sスチールを凌駕し世界一を誇る存在だった。
 ところが今や、中国が長足の進歩をとげ世界シェアの40数パーセントに及ばんとする驚異の成長を遂げてしまった。
 思い返すのは、『大地の子』の場面で日中共同プロジェクトチームで製鉄プラント建設に精出す陸一心の涙の名場面を思い出さずにはおれない。
 隔世の感を強く感じる。時代は変わってしまった。
 
 
その五 挑戦と試練挫折の河北台(21)
 
 
企業派遣研修(5)
 
 
 その最たる事例として新日鉄のホットストリップミル(全連続式熱間圧延機)を目の当たりにした時だろう。
パンツ一つのもろ肌に正規の社員着用の作業着に着替えヘルメットに手袋という仰仰しい出で立ちで案内された。
工場の横幅は数キロにも及ばんとする、前方が霞んで十分に見通すことすらできない。
 にもかかわらずプロセスコンピューターが完璧に作動するが故に作業員の数が余りも少なすぎる。
 それ以上に人間の存在が余りにも小さすぎるのである。
 皮膚を焦がさんばかりの熱気が伝わる。顔面が猛烈に火照る。
 突然、耳を劈く轟音と共に真っ赤に焼け爛れた巨大な鉄塊が転がるように引き伸ばされつつまるで生き物のように疾走して行く。
 遠くの彼方へ地響きを立てながら消えて行った。
 ステレオ効果満点の一大音響が頼もしげにわが耳にいつまでも残ったのである。
 薄きに引き伸ばされた鋼板は船舶としてあるいは車輌として蘇えり日本経済の活力のもといとなるのだろう。
かつての雄々しくも逞しく世界に君臨した、日本経済の勇姿が其処にあった。
 
 ところが、今やその面影は何処にもない。
 今朝の新聞では、シャープが台湾企業からの資金面での梃入れを受けざるを得なかったと寂しく報じている。