老いぼれの弓事始め《14》

イメージ 1
⑫ 6月28日木曜日、昼近いころ稽古に行く。
 鏡の前で巻き藁に取り組む。諸先生方より忠告やサゼッションを頂戴する中、見慣れぬ長老の方よりお声を戴いた。
 最古参の射手 (いて)御年88歳の山形先生に他ならなかった。
 弓道歴70年を超える超ベテランの言葉には並々ならぬ重みを感じた。
 足踏み胴作りでは足の裏で大地を捉え、大地のエネルギーを摂取しなさいという。
 また、脳天のてっぺんより大宇宙の真理をキャッチしなさいとスケールが馬鹿でかい。
 弓手三分の二で弓を押し、馬手三分の一で弦を引くのは左の肘で押し右の肘で引かねばならないのだと殊更力説された。
 そうすれば背中の肩甲骨がくっ付くほどに、胴着には皺がはっきりと生ずるのだという。
 矢が離れた瞬間には上体が前へのめり出て然るべしなのだとおっしゃった。
 射手の一心不乱に弓を射る誠実なる誠意が表面に発散させるべきなのだと力がこもる。
 的を射抜く技も大切だけれど、それ以上に射の心を大切にしなくてはならないと真剣な眼差しで説得されていた。
 老師はかつて深夜真っ暗やみの中で巻き藁を射て心の修行に資したのと云う。
 老師はわたしに模範演武を披露為された。
 処が何分に、過分なる御老体故着座がままならなかったが、何 (はばか)ることなく (おくび)なく演武を続けられた。
 山形先生の、弓道に対する信念のような愛着心と執着心には只々恐れ入った次第なのです。