老いぼれの夕雲考《116》

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夕雲流剣術書        小出切一雲 誌(42)
 
畜生兵法をば酷評す
 
【畢竟は己を十分の才覺賢き勇士に成りきわめて、敵をば大愚鈍の臆病者おとしつけたる了簡、誠に天理人慾のわかれも知らず、意識我慢を増長したるの至極なれば、朴な畜生には結局劣りたれども、兵法上手の名を得、世間より崇敬をも受る、比類の者、天道にも人性にも暗きは必定也、故に夕雲は一代畜生心畜生兵法とて嫌はるゝなり、】
口語訳
 
夕雲はさらに言う。
結局のところは、おのれ自身を才覚兼ね備えた賢明なる勇士に仕立ててしまい、反して敵をば大愚鈍なる臆病者に見下げてしまった訳になる。
その料簡たるや、天の理を離れ人慾に堕してしまった、わきまえ知らずの醜態なのです。
 
また、兵法に対する見解や見識が高ければ高いほど慢心から高慢さを増長させるは当然至極のことなのであります。
兵法上の巧者としての名誉を手にし、世間より崇拝される此の類の者共たちは、宇宙の道理にも人間の持って生まれた性質や宿命に対しても極めて疎き存在なのでありまして、わが師匠夕雲は生涯を通して畜生心・畜生兵法なるものを徹底的に忌み嫌われたのであります。