老いぼれの独り言

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皆中堂の主人が、わたしに宛がわれた弓は「翔」であった。
初心者向きの普及品であるが、理由( わけ)あって格別価格で譲りましょうと薦められた。
衝動買い宜しく即座に定価の七掛けの金額を支払っていた。
云う処の新古品に違いない。
自慢できる代物では在り得るはずがないが、漸くにして一角の「弓持ち射手()」の仲間入りが叶えられ得心できた。
 
それで、本日は何時になくいそいそと道場へ赴いた。
念願叶って自前の弓を持っての最初のご出仕になろう。
新入生のような晴れやいだ気分をいただいたことになる。
 
何はともあれ此の「( しょう)」くんとこれまで馴染ませて頂いた「直心 ( じきしん )」くんの違いを実感してみなければならない。
とは言うものの、能筆家の弘法樣だから「筆を選ばず」と云えるのであって、おのれ如き未熟者には判るはずがない。
おまけに弓力も13Kから14Kへ少し強まった。
恐る恐る引いてみるが左程の抵抗もなく行けるではないか。
放してみれば矢はとんだ。
  「()ける」ように「飛んだ」ではないか。
 「弦音( つるね)」と「弦音 ( つるおと )」の違いについてはからっきし知りもしない者が烏滸がましき次第ながらぎこちなく濁った音が耳に入った。
 これは「直心」から響いていた音とは異なることに気付いた。
弓手と馬手に伝わる微妙な感触の違いをも直感した。
 正直、違和感を感じ取った。
 でも、銘柄が違う以上当たり前の事ではないか、此れより先には此の「翔」を永遠の連れ添いとして一心同体の間柄になって可愛がってやらねばならないとおのれ自身に誓ったのでした。