老いのひとこと

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その日は久しぶりに快晴の朝を迎えました。
 サクラの花も未だにきりりとした佇まいで凛々しさを誇示しているようです。
 放射冷却現象で冷気が漂い身が引き締まる思いです。
 わたしの頭上すれすれの所には今を盛りに満開のサクラが見下ろして呉れている。
 上空には電柱も電線もない。
 人口の障害物が一つもない青空が空高く広まっている。
 そして、わたしが見上げる天空の片隅には残月がくっきりと懸っているではないか。
 また、わたしの左手高尾の山の稜線には朝日が煌々と輝いている。
 そんな格好の場所を独り占めしてわたしは毎日のようにラジオ体操に勤しむのです。
 足元には芝生す母なる大地が朝露に濡れている。
 柔らかき自然のクッションの上を飛び跳ね踏み締めて息を弾ませるのです。
 両手を空に掲げて大きく胸一杯息を吸う。
 地球が宿す霊気を吸い上げ大宇宙からは無限大に降り注ぐ英気をいただくのです。
 腹一杯体いっぱいに頂戴する。
 
 吉見順正の「射法訓」の末尾の一節、「書に曰く鉄石相剋して火いずること急なり即ち金体白色西半月の位なり」を彷彿とさせる。
 ラジオ体操とて糞真面目に一心不乱に執り行えば、弓の世界でしか体得出来得ぬであろう此の「金体白色西半月の位」という荘厳なる至高の境遇を見事に体現できることをいみじくも教えて頂いたことになる。
 とても有り難いことです。