野田山に倒れた老大木の根元に寄り添うように大群生する名もなき植物、開花を待つのもじれったい。
逸る気を抑えきれずに数本ほど根株ごと採取し自然史博物館へ飛び込んだ。
まさに渡りに船の通り此処では困りごとは瞬時に吹っ飛ぶのです。
温厚な眼差しの老紳士が対応してくださった。
あたふたと何ですか、そんなに慌てなさんなよ、もう少し落ち着きなさいと言わんばかりに悠然とした口調で研究室へ案内してくださった。
「あっ、これはあれですよ」
「これは、野生種ではなく栽培種ですかな」
「待ってくださいよ、必ずや正解を出しますからね」と書架一杯の専門書の中から一冊を取り出し徐にページを紐解く。
原書の活字を丹念に読み解きながら根や葉の形状と照合されている。
静寂の一時が過ぎる。
これは、あれですね、あれですよ。
春に咲くキク科の植物で珍しくもないが立派な在来種ですと説明はつづく。
県下にも野生種は確認されてはいるのですが野田山墓地で採取されたのなら野生とは言い難いですねとおっしゃる。
墓主が寂しかろうと移植したのが意外にも環境が適応したのか大繁殖したのでしょうねと老紳士は解説為されました。
念のため一株お預かりし開花を待って若し「ミヤマヨメナ」でない別種であれば連絡しますので電話番号をメモしてくださいととても良心的な植物学の大家でいられました。
頭が下がる思いをいたしました。