老いのひとこと

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裏道はまだ残雪で埋まる。


車のワダチだけは路面が現われる。


路肩は雪で覆われ人が歩いた痕跡は在るものの足許覚束ない年寄りには不向きだ。


どうしても車道を拝借してしまう。


幾ら年寄りと云えど厚かましくも図々しく行くわけには行くまい。


遠慮がちにしたて下手に頃を見計らいながら歩く。


高橋川の川沿いの狭い車道で向うから一台来た。


当然、一歩身を躱し車をやり過ごそうとしたらその車はわたしの前に横付けして止まり徐にドアを下ろす。


「此処は車道じゃ、老いぼれの頓馬」と厭味を帯びた罵声が飛ぶかと思いきや「いやあ、オジさん、危なかった済みません」と先方から謝るのはないか。


「オジさんの雨合羽の色が夜の雪道では視界から消えて無くなり寸でのことで当たっていた」と豪く恐縮為されたではないか。


世の中には優しく善意に満ち満ちた立派なお方がいらっしゃるものだ。


「蛍光塗料の付いた雨合羽が在ったらいいですね」とにっこり笑われた。


もう一つ、このお方わたくしを


「オジイさん」ではなく「オジさん」と「イ」を省いてくれたことも大変良かった。