夜回りもようやく板に着いた。
雨が降らない限り日没を待って出動する。
出るときはまだ黄昏時だが終える頃にはとっぷり日が暮れる。
行き交う人も少なく滅多と出会うこともないが出会ってもこちらから軽々しく挨拶はしない。
伏し目がちに通り過ぎるだけである。
偶には軽い会釈を交わす人も居ないことはないがむしろないに等しいと云って良い。
中には「大変ですね」と声を掛けられる御仁もいる。
少し通り過ぎてからわたしは「いや決して大変ではありませんですよー」と言葉を返したりもする。
また先日には奇異な出来事があった。
後ろから何となく他人が忍び寄る気配がする。
気になるので振り向いて見れば何とお若き女性ではないか。
此れには些かどころか大変びっくりした。
学生風に見受けたが高校生の様にも覗えた。
何かわたしに呼び掛けているようだが耳が遠いせいかよく聞き取れない。
近付いて問い質してみれば其の子は「実は家に帰ったら家の中に鳥がいるのですがどうにかなりませんか」とわたしに訴え掛けてくる。
スズメなどの小鳥ではないらしいどうも中型野鳥のようです。
どれ見てみましょうと馴れ馴れしく彼女の家まで参るわけにもいかずならば暫しの間窓を開け放って置けば逃げ去るでしょうとそんな応答しかわたしには出来なかった。
変わった女の子から変わった問答を受け夜回りにも活が入る。