三枚目の陶板表札が仕上がった、一作二作は凹文字にして字体を抉り取るに対し三作目は凸文字にして浮き立たせ周囲を抉り去った。

労作は凸字型が数倍苦労した割には出来栄えは差ほど違いはなくむしろ重厚感は凹字に軍配が挙がりそうだ。

一作目は既に大阪の三男宅へ届けたが表札には至らず玄関の片隅に無造作に置かれるだけだったがコロナで遠ざかりその後の様子は判らない、まさか処分はしてまいに。

二作目は長男へ今回のものは次男へ分け与えよう有無を言わさず引き取らせましょう。

由緒ある家柄では決してないが文字づらを辿ればその家柄は江戸時代初期にまで遡る。

其の後凋落の一途を辿り藩政期末には石高20俵の足軽分際にまで落ちぶれたが其の間、代々の御先祖方は辛酸を舐めながらも大割光琳鬼蔦なる家紋を死守し徹した。

図らずも高橋家当主に返り咲いた此のわたしは高橋の家名を長男に継承させねばならぬ使命がある。

有無を言わさず継承させねばならない、そんな思いで三兄弟に陶板表札を焼き挙げたことになる。